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東京高等裁判所 昭和35年(く)122号 決定 1960年12月22日

少年 H

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人提出の抗告申立書に記載されたとおりであつて、要するに、原決定のなした処分が著しく不当であるということに帰する。

よつて本件少年保護事件並びに少年調査各記録を調査し、且つ当審に提出された少年の父Fの上申書その他の書面及び当審における事実調査の結果を参酌して勘案するに、少年は小学校二年の頃肺結核のため療養所生活を送り、その間、父母より過分の小使銭を得て浪費の傾向が芽生え、爾来家庭に復帰した後も、小使銭に窮すると金物を持ち出して売却したこともあり、中学校に進んでは更に浪費傾向が目立ち、母の財布から金員を持ち出したり、或いはPTA会費を学校に納入しないで無断で費消したこともあり、本年春行われた修学旅行中悪友との交際関係が広まり、その頃から学業の怠休などが顕著となり、急速に不良化の度を加え、常習的に窃盗を犯すに至つたもので、その非行性は極めて根強く長期にわたるものと認められ、しかも少年の性格は意志欠如性、即行性、自己顕示性、爆発性等広範囲にわたる偏倚が見られ、少年らしい純情さを失い、自己の行動を合理化するための虚言癖があり、これを総合して精神病質の疑すら存するのであつて、これらが少年の非行性の重要な裏付けをなしているものと認められ、他面家庭環境も、両親の指導能力等から考え、必ずしも少年の教化補導に適していない。すなわち少年に対しては、施設に収容して適切な矯正教育を行い、その性格並びに非行性を改善する以外に方法はないと考えられる。してみれば、少年を初等少年院に送致する旨決定した原決定の処分は相当である。その他原決定には、決定に影響を及ぼすべき法令の違反、重大な事実の誤認、処分の著しい不当ありと疑うべき事由は存しない。

よつて本件抗告は理由がないから少年法第三十三条第一項に則りこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 岩田誠 判事 渡辺辰吉 判事 司波実)

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